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AIはカタツムリを当てられない。かたつむり見習いに聞く画像認識の限界

AIはカタツムリを当てられない。かたつむり見習いに聞く画像認識の限界

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〜同じ形でも、場所が違えば別の種だとAIは知らない〜

スマートフォンのカメラを向けるだけで、目の前の生き物の名前がわかります。画像認識はすっかり身近な道具になりました。ところが、返ってきた答えがどれくらい当たっているのかを、確かめる機会はほとんどありません。

カタツムリを専門に追いかけ、自ら「かたつむり見習い」を名乗る野島智司氏は、カタツムリの種を調べるときにAIは使わないと話します。理由は「精度が少し足りない」という話ではありません。生き物の名前という情報そのものが、AIの苦手な形をしているからです。

この記事では、AIが種名を外してしまう構造と、それでも調べたい人が何に気をつければよいのかを伺いました。

野島智司

野島智司

ネイチャーワーカー。1979年東京生まれ、大分育ち。修士(地球環境科学)。修士(教育学)。福岡県糸島市を拠点に「マイマイ計画」を主宰し、「かたつむり見習い」を名乗る。自然と人とがゆるやかにつながるフィールドワークを実践する。筑紫女学園大学非常勤講師。著書に『カタツムリの世界の描き方』(三才ブックス)、『カタツムリの謎』(誠文堂新光社)、『マイマイ計画ブック かたつむり生活入門』(Pヴァイン)、『ヒトの見ている世界 蝶の見ている世界』(青春出版社)がある。

日本に800種以上いるカタツムリ、関東と九州では別の種

生き物の名前を調べる道具として、画像認識はすでに広く使われています。よくわからない生き物を見つけたら、とりあえずスマートフォンで調べてみます。そうした行動が一般にも広まっていると、野島氏は日々の現場で感じているといいます。

ただし、答えの当たり外れは生き物のグループによって大きく変わります。野島氏が専門とするカタツムリは、画像認識がとりわけ苦手とする領域です。その理由は、カタツムリの移動能力にあります。

カタツムリは日本だけで800種以上います。移動の様式があれほどゆっくりですので、そもそも遠くまで移動できません。ですから地域ごとに種類がまったく違うんです。関東と九州では、同じような形のカタツムリでもまったく別の種です。

写真に写った殻の形や色が同じでも、それがどこで撮られたかによって答えが変わるということです。撮影地の情報を持たない写真1枚は、はじめから答えの決まらない問いになってしまいます。

カタツムリの図鑑は少なく、情報も古いものが多いといいます。
はっきり言いますと、画像認識ではなく人間が目で見ても区別ができないようなカタツムリもたくさんいます。画像認識で種がわかること自体が、まず難しい分野です、カタツムリに関しては。

とはいえ、画像認識がまったく役に立たないわけではありません。野島氏は、使える範囲と使えない範囲を分けて話します。

生物によっては、大まかにこのグループではないかな、というのを絞り込むときには、ある程度使えたりします。ただ、はっきりこれだというのを画像認識だけで調べるのは、まだまだ未熟です。

画像認識の答えを受け取るときは、次の3つを分けて考えると、扱いを間違えにくくなります。

  • ・どのグループらしいか(分野によっては参考になる)
  • ・どの種か(カタツムリのように、写真だけでは決まらない分野がある)
  • ・どこで撮ったか(種を決める前提。写真そのものからは読み取れない)

「カタツムリ」と尋ねたのに返ってくる、巻貝の話

答えが外れる原因は、写真の解像度や学習データの量だけではありません。野島氏が問題にしたのは、質問に使う言葉そのもののあいまいさでした。

カタツムリというのは種名ではなく総称なんですが、それ自体、定義が曖昧なんです。カタツムリについての質問をAIに投げかけると、そもそも日本語でもカタツムリという言葉が曖昧なので、どのカテゴリーで答えているのかが曖昧になってきます。

さらに、英語に置き換わったときにも範囲がずれます。カタツムリにあたる英語はland snail(陸に住む巻貝)ですが、snailだけでは水の中の巻貝も含んでしまいます。

英語だとスネイル、ランドスネイルが正確にはカタツムリなんですが、巻貝全般の情報がAIから返ってくることがあります。自分で調べてみても、結構あります。カタツムリのことを調べようとしていても、実は巻貝のことを教えてくれていたりします。

この現象は、カタツムリに限りません。野島氏が例に挙げたのは、誰もが知っているはずの鳥でした。

身近な鳥ほど呼び名の範囲が広く、AIの情報が混ざりやすいといいます。
スズメのことを調べようとすると、スズメの情報が返ってきます。でもその中に、ヨーロッパにいるイエスズメの情報や、日本にもいるニュウナイスズメという別のスズメの情報が混じっています。スズメの中にもいくつかスズメがいるのに、その情報が全部スズメ一般として返ってきてしまいます。

分類そのものが動くこともあります。例として出たのはマンボウで、かつて1種と思われていたものが、近年になって複数の種に分けられてきました。名前は同じでも、その言葉が指す範囲が時期によって違うということです。

「種」と「総称」のちがい
「種」は生物分類の基本単位で、学名がひとつに決まっています。これに対して「カタツムリ」「スズメ」「キノコ」といった呼び名は、複数の種をまとめて指す総称です。総称のまま質問すると、AIは「どの種の話をすればよいか」を決められないまま、複数の種の情報をまぜて答えることがあります。

実務として気をつけたいのは、AIの答えの正しさより先に、こちらの問いの範囲を確かめる順序です。答えを受け取ったら、その説明がどの種を指しているのかを1度戻って確認します。学名や、生息する地域が書かれていない答えは、範囲が定まっていない可能性があります。

AIに正しいものとして運ばれる、訂正されない誤り

野島氏は、保全活動も積極的に行なっているとのこと。

AIが事実と異なる内容を作り出してしまう現象は、ハルシネーションと呼ばれます。ただし野島氏が問題にしていたのは、それとは別の経路でした。もとになる情報自体が、すでに誤っている場合です。

きっかけとして挙がったのは、AIそのものよりも、ショート動画やSNSの影響でした。

最近は、生き物に関する危険を煽るような情報が、非常に一般に広まっているなと感じます。例えば、カタツムリの寄生虫のことなどです。しかも、少し過剰に危険を煽るような情報が広まっていて、そこまで恐れる必要はないのに、と思うこともあります。実際に自然観察会で一般の方と接していると、そう感じます。

その空気は、子どもたちの行動にも表れているといいます。

子どもも含めて、カタツムリはもう手袋をして触るとか、そういうふうになっていますね。その方が安全ではあるのですが、自然との距離ができてしまうことが心配です。

野島氏によれば、外来の危険な寄生虫が存在すること自体は事実です。問題は、事実と誤りが混ざった形で広まっている点にあります。

もちろん危険な寄生虫もいるにはいますが、特定の地域をのぞけば、確率としては非常に低いですし、しっかり手洗いをすることで防げます。それが、もうまるで猛毒の生きものという感じになってしまっているな、と思うことがあります。

混ざり方も具体的でした。人に感染しうる寄生虫の話と、人には感染しないけれど見た目の印象が強い寄生虫の話が、ひとつの話としてまとめられてしまうといいます。

話に出た2つの寄生虫
広東住血線虫は、日本に持ち込まれて増えた外来のアフリカマイマイなどが運ぶ寄生虫で、人に感染することがあります。
ロイコクロリディウムは、カタツムリに寄生し、鳥に食べられやすくなるよう宿主の行動を変えるとされる寄生虫です。見た目の印象は強いものの、人には感染しないと野島氏は説明します。
そのグロテスクさや、カタツムリをわざと鳥に食べさせるように誘導する生態のインパクトがありますので、本来、別の寄生虫なのに、本当に人間に危険な寄生虫と、見た目のインパクトのある寄生虫の情報が混ぜられていることがあります。個々の情報は事実なのですが、インパクトのある映像が混同されて広まってしまうことが時々あります。

扱う人が少ない分野ほど、誤りは訂正されずに残ります。そして、残った情報はAIにも読み込まれます。野島氏は、正しく発信する側の手応えのなさについても率直でした。

正しい発信をしても、それはインパクトが薄いので、なかなか広まっていかないというもどかしさはあります。自分はカタツムリが専門ですので、カタツムリに関するネット上の誤情報はいくつか知っていますが、おそらく、他の分類群、他の生き物でもそういうものはあるのだろうな、と思います。

読み手にとっての実務的な意味は、はっきりしています。AIの答えを疑うときに「AIが作り話をしたのではないか」だけを疑っても足りません。もとの情報が誤っていた可能性も、同じ重さで疑う必要があります。とくにニッチな分野では、同じことを書いたページが並んでいることは、正しさの証拠になりません。

写真1枚では決まりません。種を絞るときに足すべき情報

それでも生き物の名前を調べたいとき、何を足せば答えに近づけるのでしょうか。野島氏が実際の同定で見ている項目を挙げてもらいました。

まず第1に地域が大事で、これがどこで採れたカタツムリなのか、ということです。そっくり同じようなカタツムリでも、福岡と東京と北海道とでまったく種が違ったりしますので、まず地域の情報は必須です。小さいサイズで大人になるものもいますので、大人になった状態でどのくらいの大きさかというのが、結構大事になってきます。

さらに、殻をさまざまな角度から見ること、そして殻の外に出ている体そのものを見ることが続きます。

殻の微妙な形にいろいろ違いがありますので、いろいろな角度から殻の状態を見ます。あと、体の柔らかい部分を軟体と言うのですが、その軟体の色なども判断材料になります。
殻の模様は個体差が大きく、模様だけでは同種でも別物に見えるそうです。

そして、写真を撮る段階での作法があります。これは道具がAIかどうかにかかわらず、あとから種を絞れるかどうかを決めてしまう部分です。

基本、写真に撮るときも必ずスケールになるものを一緒に撮らないと、明確な種の同定というのはなかなか難しかったりします。

ここまでを、AIに尋ねるときの手順に置き換えると、次のようになります。

  • ・撮影した場所を、市区町村まで添える
  • ・定規や硬貨など、大きさの基準になるものを一緒に写す
  • ・殻や体を、上から・横からなど複数の角度で撮る
  • ・殻だけでなく、外に出ている体の色も写す
  • ・答えが返ってきたら、それがどの種を指しているのかを学名と分布で確かめる

そのうえで、答えが1つに決まらないまま残ることもあります。野島氏は、専門家に送っても最終的にDNAの解析まで進む場合があると話していました。写真1枚で名前が決まらないのは、道具の性能というより、生き物の側の事情でもあります。

なお、現場でしか得られない情報や、危険な生き物との付き合い方については、別記事「ネイチャーワーカーに聞く、野草とキノコをAIで判定してはいけない理由」で伺っています。

生き物の名前は、写真1枚に写っているものだけでは決まりません。地域も、大きさも、体の色も、撮った人が足さなければAIには渡らない情報です。そして、その足りない前提のまま返ってきた答えは、もっともらしい文章の形をしています。AIに尋ねること自体が問題なのではなく、問いの範囲を決めないまま答えを受け取ることが問題なのだと、野島氏の話は教えてくれます。

取材日:2026年8月19日

写真提供:野島智司氏

編集プロダクション雨輝

この記事を書いた人

編集プロダクション雨輝

2014年創業。取材・執筆、編集、校正・校閲、ファクトチェックなど、コンテンツ制作を幅広く手がける編集プロダクション。正確性と信頼性を重視し、専門家への取材や一次情報の確認を通じた、質の高い情報発信に取り組んでいる。https://amaterupro.jp/

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