
AIは魔法ではない。野菜ソムリエプロが語る、どこまで任せるか
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〜本を1冊まるごとAIに書かせない理由がある〜
生成AIに献立を相談する人が増えています。写真を送ればカロリーの目安が返ってきますし、冷蔵庫にある食材から作れるものも提案してくれます。野菜ソムリエプロの福光佳奈子氏は、そうした使い方には「どんどん活用するといい」と言います。
ただし、自分の仕事となると話は変わります。本を1冊まるごとAIに書かせることはしません。AIに任せていい作業と、人が引き受けるべき判断は、どこで分かれるのでしょうか。執筆・監修・レシピ開発を手がける食の専門家に、その線の引き方を伺いました。
福光 佳奈子
漬け込みマイスター/野菜ソムリエプロ/薬膳インストラクター札幌市生まれ。大学卒業後、広告会社やメーカーへ勤務。会社員時代から食や健康をテーマに学びを重ね、野菜ソムリエをはじめとした多数の資格を取得する。2017年よりセミナー活動を開始し、2020年独立。現在は食や健康に関する執筆・監修・セミナー講師などをしている。ベトナム・モンゴルの大学にて『野菜薬膳』の特別講義を実施。著書に『体にうれしい果実酒・野菜酒・薬用酒200』(秀和システム)、『今年からは手作り派 やさしい梅しごと』(食べもの通信社)、『心も体もよろこぶ 養生酒大全100』(自由国民社)がある。著書は世界5か国で翻訳出版され、図書館採用は累計3,000冊超。読売新聞・日本経済新聞・AERA・女性セブン・Yahooニュースなどメディア取材実績多数。
「委ねすぎはやらない」——AIに渡すのは整理と文章、判断は渡さないという線引き
福光氏がAIを仕事に取り入れたのは2025年からです。原稿もレシピも、最初から最後まで自分の手で書きます。読みにくいところや誤解されそうなところだけをAIに整えてもらいます。使い方はその範囲に収めています。
技術的には、もっと大きく任せることもできます。それでも、あえてやらないと決めていることがあります。
理由は仕上がりの質だけではありません。あくまで経験と知識に基づいて自分軸を持ってやる、というのが福光氏の考え方です。丸投げすると、出てきたものが自分のやりたかったものからずれていきます。ずれたことにも気づきにくくなります。
では、どこまでを渡し、どこから自分で持つのか。福光氏はこれを1文で言い切りました。
整理と整形は渡します。取捨選択と判断と責任は渡しません。この線引きが精度の話ではないことに注意が必要です。AIの精度がどれだけ上がっても、責任を引き受ける主体は動きません。福光氏の区別は、性能ではなく責任の所在で引かれています。
実際に渡しているもの、渡していないものを並べると、こうなります。

- ・渡す ── 情報の整理、文章を読みやすく整えること、迷ったときの壁打ち
- ・渡す ── 「なぜそう思ったのか」を説明させて、自分の迷いを言葉にすること
- ・渡さない ── 何を書き、何を落とすかの取捨選択
- ・渡さない ── 内容が正しいかどうかの判断
- ・渡さない ── 出したものへの最終的な責任

「AIで十分」と言える場面と、それでも人に頼みたくなる理由
意外だったのは、一般の人がAIを使うことに対して、福光氏がかなり積極的だったことです。とくに食事の記録や目安づくりについては、はっきり勧めます。
パーソナルトレーニングと比べても、という話まで出てきました。あくまで個人としての意見だと前置きしたうえで、こう続けます。
ところが、その直後に出てきたのは、人に頼むことの価値でした。きっかけは、パーソナルトレーニングのジムに通った友人の話です。その友人は、期間が終わったあとに10kgほど体重が増えていたそうです。それでもトレーナーへの不満をいっさい口にしなかったといいます。福光氏はそこに引っかかりました。
AIが冷たいという話ではありません。福光氏も、AIは気持ちに寄り添ってはくれると言います。違うのは、こちらから問いかけないかぎり何も起きないという点です。落ち込んでいる日に、向こうから声をかけてはきません。
そして、励ましの効き方は体重だけにとどまらない、とも見ています。
人気のあるトレーナーはホスピタリティが高いと聞いたことがある、と福光氏は話します。そのうえで、これは合う合わないの問題だ、とも付け加えました。自分の食べたものを人に見せたくない人はAIを使えばよく、見ていてくれる人がいたほうが頑張れる人は人に頼めばよい、という話です。同じサービスの優劣ではなく、続けられる形の違いだという整理です。
この分け方は、食に限らず使えます。
- ・AIに任せやすい ── 記録、集計、目安の算出、選択肢を並べること
- ・AIに任せやすい ── 人に見せたくない情報を扱うこと
- ・人に頼む価値が出る ── 続けられずに止まってしまうとき、背中を押してもらうこと
- ・人に頼む価値が出る ── 自信や主体性を取り戻す必要があるとき
- ・人に頼む価値が出る ── こちらから問いを立てられないとき
「なんとなく聞かない」——問いを立ててから渡し、公開前に見る5項目
AIに渡す前の作法についても、はっきりした基準がありました。
考えないまま投げると、軸がぶれ、抜け漏れが増えます。だから、自分の中で問いを固めてから渡します。
迷いは言葉にしてから渡します。順序が逆になると、AIの答えが自分の判断の代わりに入り込んでしまう、という指摘です。
そして、作ったものを世に出す前。食と健康のコンテンツで最低限確認したい項目を伺うと、福光氏は5つを挙げました。
- ・数字 ── 分量、時間、温度、人数が合っているか
- ・出所 ── エビデンスがどこにあるのかを示せるか
- ・安全性 ── 衛生面や体質を含めて、危ない工程が残っていないか
- ・再現性 ── 「あなただからできる」ではなく、誰がやっても同じようにできるか
- ・表現 ── 断言していいのか、可能性が高いにとどめるべきか

最後の1つについては、こう補足しています。
5つを並べてみると、AIが自力で埋められるものと、そうでないものが分かれます。数字の計算や表現の調整は、指示すれば整えてくれます。ですが、出所を示すこと、安全かどうかを引き受けること、誰がやっても同じ結果になると保証することは、作った人が確かめるしかありません。
「腐るポイントを知っているんです」——失敗した人にしか書けない一言
AIが大量のレシピと栄養情報を出せる時代に、現場を持つ専門家は何を提供できるのか。この問いに、福光氏は即答しました。
梅仕事がその例です。梅干しや梅シロップを腐らせてしまった、という人は少なくありません。福光氏には、どこで腐るのかの見当がついています。
失敗の記憶は、経験談としてではなく、注意事項という形で読者に渡ります。そしてこの一言こそ、AIの回答からいちばん抜け落ちやすい部分でもありました。
もう1つ挙がったのが、楽しみ方の選択肢です。

知らないことは、検索することもできません。これはAI以前からある話だ、と福光氏は言います。

AIそのものへの見方も、期待でも警戒でもない、静かなものでした。
出版の現場でも、書き手の輪郭は見られている、と福光氏は聞いています。企画書や原稿をそのままAIに書かせて出す人がいて、それは編集者にはすぐわかるようです。その人の思いや、その人自身の言葉がないものは続かない、というのが福光氏の見立てです。
AIで作ったものに、人の側から足せるものを整理すると、次のようになります。
- ・自分が失敗した箇所と、なぜそうなるのかという理由
- ・読者がつまずく手前に置く、一言の注意
- ・知らなければ質問も出てこない、楽しみ方の選択肢
- ・誰に向けて書いているのか、という前提
- ・出したものに責任を持つ、という表明
AIに任せていい作業と、任せてはいけない判断。福光氏の線引きは、性能ではなく責任の所在で引かれていました。整理と文章の整形は渡します。取捨選択と判断と責任は渡しません。そして、その責任を引き受けられるのは、自分で問いを立て、自分で失敗したことのある人だけです。腐るポイントを知っているという一言は、経験を持つ人にしか書けません。
なお、AIが出したレシピや食の情報のどこを疑い、何で確かめればよいのかについては、別記事「漬け込みマイスターに聞く、AIのレシピはどこまで信用していい?」で福光氏に伺っています。
なお、AIが出したレシピや食の情報のどこを疑い、何で確かめればよいのかについては、別記事「漬け込みマイスターに聞く、AIのレシピはどこまで信用していい?」で福光氏に伺っています。
取材日:2026年8月19日
取材写真:Zoom取材時のスクリーンショット(編集部)/
この記事を書いた人
編集プロダクション雨輝
2014年創業。取材・執筆、編集、校正・校閲、ファクトチェックなど、コンテンツ制作を幅広く手がける編集プロダクション。正確性と信頼性を重視し、専門家への取材や一次情報の確認を通じた、質の高い情報発信に取り組んでいる。https://amaterupro.jp/



