
AIで整えた架空の記者の記事が、海外の報道機関に相次いで掲載 署名だけでは書き手を確かめられない
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イギリスのメディア業界誌Press Gazette(プレス・ガゼット)が更新を続けている「報道でAIの使い方を誤った事例」の一覧は、2026年10月13日の更新の時点で、OpenAIが10月8日に公表した事例を先頭に載せています。(出典①)OpenAIによると、イランに由来する影響工作(世論を特定の方向へ動かそうとする組織的な活動)が使った7人の架空の記者の名義で、100本近い記事が十数のオンラインメディアで公開・転載されていました。(出典②)
署名や略歴をそろえた架空の書き手の寄稿が、報道機関に掲載される例が続いています。
この記事でわかること
- ・架空の記者の名義で、記事がどのように報道機関に載ったのか
- ・編集者が偽の書き手に気づいたきっかけと、その後に変えたこと
- ・記事を読むときに、書き手を確かめる方法
報道でAIの使い方を誤った事例を、英業界誌が一覧にしている
Press Gazetteは、報道業界のニュースを伝えるイギリスの業界誌です。一覧は随時更新されていて、報道機関がAIの使い方を誤った主な事例を、2026年、2025年、2023〜24年に分けて載せています。同誌は、ほかの報道機関がこうした失敗から学べるように記録していくとしています。(出典①)
載っている事例の種類はさまざまです。記者がAIに要約させた文を本人の発言として引用してしまった例や、AIへの指示や回答の文が記事に残ったまま公開された例もあります。Press Gazetteは、実在しない書き手によるAIの原稿を大手の報道機関が誤って掲載した例が、この1年で数多くあったとしています。
7人の架空の記者の名義で、100本近い記事が載った
OpenAIは2026年10月8日、ロシアとイランに由来する2つの影響工作に使われたアカウントを停止したと発表しました。報告書には日本語版もあります。このうちイランの工作を、OpenAIは「偽りの署名」(英語では Bogus Bylines)と名付けています。(出典②)
報告書によると、工作の担い手は英語の長文記事をChatGPTに確認・推敲させていました。掲載したいメディアの投稿基準に照らして草稿を評価させ、修正案を出させたうえで、そのメディアの編集者に記事を売り込むメールも作らせていました。扱っていたのは、主に米国とイランの紛争です。
売り込みには、7つの架空の著者名が使われていました。一部の記事に添えて公開された略歴によると、どの人物も西側の国のジャーナリストを名乗り、多くは国際政治や中東、人権、紛争を専門としていたといいます。ほとんどが米国人を装い、ニュージーランド在住とする人物もいました。
一部の人物には複数のソーシャルメディアのアカウントも用意されていました。ある人物はプロフィールで「米国人のフリーライター」と名乗っていましたが、アカウントの透明性情報(所在地などを示す表示)では、所在地がイランになっていました。
OpenAIは、十数のオンラインメディアで、この工作の著者名義による記事が100本近く公開または転載されていたことを確認しました。掲載先は主に国際情勢や地政学、中東の出来事を扱う中小規模のメディアです。確認できた記事は、2025年7月から2026年10月にかけて公開されたものです。
一方、ワシントン・ポストはOpenAIの話として、掲載先を「少なくとも20のメディア」と伝えており、報告書の数とは一致していません。(出典③)また、OpenAIは、ロシアとイランの2つの工作がメディアに載せた内容のすべてが、同社のモデルで生成されたわけではないとしています。
OpenAIは、活動全体は依頼を受けた商業目的の主体による影響工作と整合的に見えるとしつつ、具体的な実行主体は特定できなかったとしています。影響の大きさは、影響工作の広がりを1(最低)から6(最高)で評価する拡散度尺度(Breakout Scale)で、記事の掲載をカテゴリー4、ソーシャルメディアへのコメントの投稿をカテゴリー2と評価しました。
載せた側は、書き手の身元を十分に確かめていなかった
ワシントン・ポストによると、7人のうちの1人、アーヴィン・ホスキンス名義の記事は、フロリダ州の小さな週刊紙Port St Joe Starのほか、ニュースサイトのDaily KosやMiddle East Monitorにも載っていました。
Middle East MonitorとDaily Kosは記事を取り下げたとしています。Daily Kosの記事は、掲載前に職員が確認しない利用者の投稿欄に載ったものでした。(出典③)
Port St Joe Starの発行人はワシントン・ポストに対し、記事は何年も前から原稿を送ってくる団体から売り込まれたもので、付き合いがあったため、記事の出どころや書き手の身元を確かめる必要を感じなかったと話しています。Press Gazetteは、Port St Joe Starも記事を取り下げたとしています。
掲載前の身元の確認が足りなかった例は、ほかにもあります。カナダの政策誌Policy Optionsは2026年9月24日、2025年10月に掲載した寄稿を取り下げたと説明しました。書き手は掲載前に、同じ名前の署名がほかのカナダのメディアに載っていることを示していました。同誌は、その署名と、1か月近い編集のやり取りに応じた態度を信頼して掲載したといいます。(出典④)
2026年9月7日、同誌はトルコの編集者から、この書き手を保証できるかという問い合わせを受けました。その後、Policy Optionsは書き手の身元や経歴を確かめられず、記事を取り下げました。記事の本文そのものには、見たところ問題はなかったとしています。
書き手は、取材にかかわる安全上の懸念を理由に、身元を確かめる情報を出さなかったといいます。書き手とのやり取りや、同じ書き手から届いて掲載しなかった6本の原稿には、AIの手助けの跡があったとしています。
編集長は、ほかの媒体に載ったことに頼りすぎたと振り返り、「掲載されたこと自体が実績になってしまう、信頼の連鎖」(原文:a form of trust cascade in which publication itself becomes a credential)だったと書いています。
同誌は今後、独立に確かめられる実績が乏しい書き手や、AIに大きく頼ったとみられる書き手には、身元と専門性を確かめる手順を足し、AIの使用を明かさない原稿は掲載しないとしています。
実在の記者の名前を使って寄稿した例もある
架空の人物ではなく、実在の記者になりすました例もあります。科学誌Scienceは、2026年6月19日に公開したニュース記事を、9月16日に取り下げました。(出典⑤)
記事のページに残された編集部の注記によると、書き手は実績のある科学ジャーナリストの身元を名乗り、Scienceの編集者とも、記事の取材先ともやり取りしていました。注記は、記事の中に具体的な誤りは今のところ見つかっていないとしたうえで、書き手が提供した引用のうち2つが、ほかの書き手の既出の記事にあったとしています。注記はAIの使用には触れていませんが、Press Gazetteは、この書き手がAIを使って記事を書いたとみられるとしています。
編集者が気づいたきっかけは、請求書の名前だった
アメリカ・ミシシッピ州の非営利の報道機関Mississippi Free Pressは2026年4月17日、4月7日に掲載した意見コラムがAIを使って書かれ、書き手も名乗ったとおりの人物ではなかったと公表しました。同紙は、コラムを編集部の注記に置き換えたとしています。(出典⑥)
意見欄の担当編集者によると、コラムそのものに変わったところは見当たりませんでした。疑いを持ったのは、書き手が送ってきた請求書の名前が、名乗っていた名前と合わなかったときです。
メールの署名に書かれていたソーシャルメディアへのリンクは、どれも切れているか、存在しないものでした。履歴書にあった会社名と名前をあわせて検索すると、同じ書き手とやり取りし、掲載の前に見抜いた別の編集者が見つかりました。プロフィール写真もAIで作られたものでした。
同じ編集者が、新しい書き手から最近届いたほかのコラムを調べると、別の名前を使う偽の書き手によるAIのコラムが多数見つかりました。いずれも国外から送られてきたとみられ、掲載はしていません。同じような兆しがあるとして、掲載予定だったコラム3本も取り下げました。AIで書かれた文章を見分けるツールは、あまり当てにならないとも述べています。
4月17日の説明では、同紙はAIの使用についての方針を作っていて近く公開する予定で、編集部がAIの使用を見抜くための研修も準備しているとしていました。意見記事の文章の基準を上げて手直しを厳しくすることや、書き手を地元のつながりから募り、ミシシッピ州の話題を重んじることにも取り組むといいます。
記事の書き手を確かめるには
紹介した例では、偽の書き手は署名と略歴をそろえ、ソーシャルメディアのアカウントやプロフィール写真まで用意していました。編集者がやり取りを重ねても、掲載の前に見抜けなかった例があることを考えると、読者が署名だけで本物かどうかを判断するのは難しいでしょう。
ここまでの例を踏まえると、気になる記事を読んだときや人に勧める前には、次の点が手がかりになります。どれも、1つだけで書き手が本物か偽物かを決められるものではありません。
- ・名前と所属をあわせて検索する:書き手の名前と、略歴にある勤め先や専門をあわせて検索し、本人の活動の記録がほかにもあるかを見ます
- ・載った媒体の数を実績とみなさない:いくつもの媒体に署名が載っていても、それだけでは書き手が実在する証拠になりません
- ・記事のページの注記を見る:取り下げや訂正があった記事には、ページの冒頭や末尾に編集部の注記が付くことがあります
- ・アカウントの表示を見る:ソーシャルメディアのアカウントが略歴の内容と合っているか、所在地などの表示が名乗っている国と食い違っていないかを見ます
どれも海外の事例ですが、署名と略歴だけでは書き手を確かめにくいという点は、日本語の記事を読むときにも当てはまるでしょう。誰が書いたのかが確かめられない記事は、中身が正しく見えても、根拠として使う前に別の資料に当たっておきましょう。
まとめ
Press Gazetteの一覧には、架空の書き手や実在の記者になりすました書き手が、AIを使った、あるいは使ったとみられる記事を送り、報道機関が掲載まで通してしまった例が並んでいます。OpenAIは、イラン発の工作が使った7人の架空の記者の名義で、100本近い記事が十数のメディアで公開・転載されていたと公表しました。
署名があることや、ほかの媒体に載っていることは、書き手が実在する証拠にはなりません。名前と所属をあわせて検索し、記事のページの注記やアカウントの表示も見てから、記事を根拠に使いましょう。
出典
- AI in journalism: Live tracker of scandals and mistakes|① Press Gazette
- AI を利用した「偽装組織・人物」による工作の阻止|② OpenAI
- Iranian campaign planted fake articles in real U.S. publications using ChatGPT|③ ワシントン・ポスト(The Philadelphia Inquirerの転載)
- Why we took down an article published under the name Daniel Robson|④ Policy Options
- Your heartbeat quietly shapes how your brain processes information|⑤ Science
- Editor’s Note | We Unknowingly Published an AI Column by a Fake Author. Here’s What Happened.|⑥ Mississippi Free Press
この記事を書いた人
Fact Check Lab編集部
世の中で話題になっている情報のみならず、生成AIの精度やハルシネーションの検証・分析を行う編集部。誤情報は、意図的な嘘だけでなく、事実の一部が伝わる過程で欠け落ちたり、文脈から切り離されたりすることでも生まれる。だからこそ、疑うことよりも確かめることを大切にする。不偏不党の精神で発信元をたどり、一次情報にあたる。



