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「バランスよく食べるだけ」農学博士が語る健康情報の見分け方

「バランスよく食べるだけ」農学博士が語る健康情報の見分け方

〜グラフの下の「N=4」を見落とすと、買い間違える〜

「研究で効果が証明されています」「〇〇大学の研究によれば」。商品の広告でよく見る言い回しです。テレビで紹介された食材が、翌日にはスーパーから消えることもあります。ですが、その根拠として示された折れ線グラフの下には、被験者がわずか4人と書かれていることがあります。

農学博士で管理栄養士の竹本小百合氏は、食品メーカーの研究開発職と国の医療機関を経たのち、いまは「みらいごはんラボ」の主宰です。商品の表示を自分でも読み間違えて買ったことがある、と明かします。

この記事で聞くのは、あふれる食と健康の情報のうち、何を見て信じ、結局のところ何をすればよいのかという1点です。研究データ、発信する人、商品表示の3つをたどり、最後に竹本氏が「これだけ」と言い切ったところまで伺いました。

竹本小百合

竹本小百合

農学博士/管理栄養士。食品メーカーでの研究開発・広告職を経て、国の医療機関で減塩プロジェクトに携わり、学校給食のレシピ開発や食育教材制作を担当。現在は「みらいごはんラボ」を主宰し、未就学児から大人まで対象に、生活習慣病予防や偏食克服をテーマに活動。食育絵本の執筆、企業講演、サプリメント商品の監修、NHK食育番組出演など、食と健康に関する発信を幅広く行う。関西の子育て雑誌「まみたん」にも寄稿。

折れ線グラフの下の「N=4」——研究データの見るべき場所

商品のパッケージだけでなく、メーカーのサイトにも「研究で効果が確かめられた」という説明があります。テレビの商品紹介でも、効果を示す折れ線グラフが出てきます。竹本氏が最初に見るのは、そのグラフの数値ではありません。

乳製品のメーカーさんが、臨床試験のような形で検査をして、骨密度が上がったというデータもあったりするのですが、テレビでもよく商品紹介されていて、折れ線グラフが出てきたりするんです。そこの少し下のところに、Nいくつ、というのが書いてあるんです。

「N」とは

研究に参加した人数、または調べた検体の数を表します。「N=30」であれば30人分のデータという意味になります。グラフの近くに小さく添えられている数字で、同じ「研究結果」でも重みが変わります。

被験者の数がとても少ないデータを、よく見せている場合がある、といいます。Nが4、Nが5のこともあれば、そもそも人を対象にした試験ではなく、シャーレの中だけの細胞試験のこともあります。

では、どのくらいあれば見てよいのか。竹本氏が目安として挙げたのは、機能性表示食品でよく言われる水準でした。

機能性表示食品でよく言われているのは、Nが30前後あるものということなので、そのくらいあると安心です。Nが4とか、Nが5であるとかいうのは、少し気をつけたほうがいいと思います。
ランダム化研究の文献集めにAIを使い、聞くほど答えが崩れたそうです。

そのうえで竹本氏が「一番その効果があると言われている」と位置づけたのが、特定保健用食品、いわゆるトクホでした。人を対象とした試験の数が決められ、別のチェックも入るため、臨床的なデータがしっかり取られているものだと思ってよい、という見方です。

特定保健用食品(トクホ)と機能性表示食品

どちらも保健の機能を表示できる食品の制度ですが、手続きが違います。トクホは、製品ごとに国の審査を受けて許可されます。機能性表示食品は、事業者が科学的根拠などを届け出る仕組みです。同じ棚に並んでいても、根拠の確かめられ方は違います。

一方で、トクホそのものを疑う人も一定数存在しています。制度自体がビジネスではないか、という見方です。何を手がかりにすればよいかを尋ねると、竹本氏が挙げたのは制度の外にある実績でした。

長く販売されていて、健康被害が出ていないものとか。そういうものを確認していくのがいいかなと思います。

広告で研究結果を見たときの手順は、3つです。

  • グラフの近くにある「N=」の数字を探す(見当たらなければ、根拠の規模が分からないと考える)
  • 人を対象にした試験か、細胞や動物の試験かを確かめる
  • 制度上の位置づけ(トクホか、機能性表示食品か、それ以外か)を見る

資料を見て話しているか——発信する人の選び方

情報の出どころは、データだけではありません。誰の口から出た話なのか、という問題もあります。信頼できる管理栄養士をどう見分けるかを尋ねると、返ってきたのは資格の話ではありませんでした。

どんな文献を使ってお話をしているかというところが、とても気になります。情報を簡単に調べてお話をされている方と、きちんと食事摂取基準など資料を見てお話しされている方がいらっしゃいます。勢いだけでしゃべっている方も信用してしまうということがありますので、きちんと資料を調べて使われているかというところを信用していただきたいです。

見分ける手がかりは、講演の資料にあるといいます。研究者が発表する際は、参考資料として端にURLや文献を載せるのが通常だ、と竹本氏は言います。その出所をきちんと出して話しているかどうか。講義という形式だけで判断せず、そこを見てほしい、と話します。

自作の食育絵本を、講演の教材としても使っているそうです。

もう1つ挙がったのが、肩書きの重なりです。管理栄養士を名乗りながら、実質的には料理研究家に近い仕事をしている人もいます。

例えば今流行ってる発酵とか。発酵料理研究家の管理栄養士っていう方が、ヘルシーなイメージがあると思われがちなんですが、発酵の使い方でも、例えば塩麹を使っていても、摂りすぎると塩分過剰になってしまいますので注意が必要です。

竹本氏が出した基準は、はっきりしていました。一面の良さだけを発信する人ではなく、メリットとデメリットの両方を話せる人。こういう面もあるけれど、こういう点には注意してください、と両方を言える人であれば、少し安心してよい、という言い方です。

この基準が効くのは、紹介された情報が現場に届くときです。竹本氏が引いたのは、おからパウダーが流行したときの話でした。

おからパウダーが流行ったときも、在庫がなくなりました。普通に仕事で使いたかったのですが、高いので、転売サイトなどでしか買えないということがあったりします。それだけ消費者の方はメディアの過剰表現を信じがちなので、本当に影響が出るなと思います。

影響は消費者の買い物にとどまりません。メディアで危険だと紹介された食材について、病院の食事に入っていないかと問い合わせが来ることがあり、対応しきれずにその食材を使わなくなる、という話でした。治療のために組まれた献立が、番組をきっかけに動くということです。

ではどう受け取ればよいのか。竹本氏の答えは、鵜呑みにしないこと、紹介のされ方を見ることでした。一部の商品だけが紹介されているなら、そのスポンサーが番組に関わっている可能性を考えます。何を見せているかではなく、誰が費用を出しているかを見る、ということです。

自分も買い間違えた、「不足分の鉄」という表示

商品の表示は、嘘を書いているわけではありません。ただ、読み手が受け取る意味とずれます。竹本氏がその例に出したのは、自分自身の買い物でした。

鉄分を摂りたくて、私も買おうとして間違えたことがあります。不足分の鉄が入っている、1日の平均の不足の鉄が入っている、と書いてあったので、あれ、これでは足りなかったのか、と。

「不足分の〇〇が入っています」という表示は、1日に必要な量が入っているという意味ではありません。平均的に足りていない差分を補う、という意味です。ですが読んだ側は、1日分がこれで補えたと受け取ってしまいがちです。竹本氏は、たくさんは入れられないから不足分と書く商品が最近は多い、と見ています。

比較の見せ方にも同じことが起きます。「レタス〇個分の食物繊維」は量の多さを想像させますが、比べる相手の選び方で印象は変わります。竹本氏は、ごぼうと比べればごぼうのほうが食物繊維が多く、レタスを基準にすると多く感じられる、と指摘します。

竹本氏が編集者に最も注意してほしいと言ったのが、食品と医薬品の混同です。

鮭の効果と言いながら、アスタキサンチンをどのくらい摂るかで、鮭何個分というふうにコラムで書きがちなのですが、鮭1枚でその効果が出ているのかというところがわからないと思います。およそ1日に必要なアスタキサンチンは鮭何切れ分です、ときちんと書いていればよいのですが。

アスタキサンチンとは

鮭やエビ、カニなどに含まれる赤色の色素成分で、サプリメントの原料にも使われます。ここで問題になっているのは、成分の効果を示した研究と、その成分を含む食品を食べることが、同じではないという点です。

成分の名前で語られると、その食品を食べれば同じ効果が得られるように読めます。ですが、その食品にどれだけ含まれているかは別の話です。同じずれは身近な食材にもあり、ビタミンCといえばレモンと思われがちですが、実際にはパプリカのほうが多く含んでいる、と竹本氏は挙げます。

編集者や企業担当者がAIで栄養・健康の記事を作った場合、公開前に見るべき点は3つでした。

  • 何を出典として使っているか(一般の方が書いたコラムを引いていないか、国の機関が公開している調査データにあたっているか)
  • 昔のデータを、今の摂取量として書いていないか。基準は最新のものか
  • 食品の効果と医薬品の効果を、混同していないか

舌は2週間で戻る——外食とのつきあい方

情報の見分け方の先に、何をすればよいのかが残ります。竹本氏が長く関わってきたのは減塩の分野です。国の基準は、更新のたびに食塩について厳しくなっている、と話します。国民の食事を分析した調査で、摂りすぎているものとして食塩が挙がっているためです。

目標は健康寿命を延ばすことで、国の計画「健康日本21(第三次)」で脂質・野菜・食塩が掲げられている——ここまでは行政の側の話です。ですが竹本氏は、実態との距離を「すごく乖離しているな」と表現しました。

各自治体はずっとその計画に合わせてイベントを開催し続けているんです。そこに来る方は、意識がとても高い方に限られていて、その方々はもちろんずっと健康な方になっていきます。一方で、イベントに出向かない方は、偏った情報をネットやSNSで拾っていきます。

では、イベントに行かない人が自分の状態を知る方法は。竹本氏が示したのは、家でできる確かめ方でした。

簡単にできる方法として、経口補水液を1/2に希釈をして、ちょっと飲む。しょっぱいか甘いかを感じるか感じないか。味覚の閾値というものがあるのですが、そこで味覚が鈍っていないかがチェックできたりします。

味覚の閾値とは

味を「感じ取れる」ぎりぎりの濃さのことです。この濃さが高いほど、薄い味を感じ取りにくくなっています。塩分を摂りすぎている場合や、脱水気味の場合に、感じ取りにくくなることがあるといいます。

薄めた経口補水液で、しょっぱさや甘さを感じられれば、味覚は保たれています。何も感じない場合は、塩分の摂りすぎか、脱水が考えられます。戻すのにかかる期間もはっきりしていて、減塩の生活を続けていけば、2週間で舌は研ぎ澄まされていく、といいます。

減塩の啓発活動に10年以上携わり、味覚チェックも実施しているそうです。

とはいえ、外食を我慢し続ける話ではありません。ここでも答えは、両方を言うものでした。

ラーメンとかおうどんの汁は残すということが基本で、それも3割残すというところから始めていただくと。あとはお寿司を食べるときに、醤油をネタにべったりつけるのではなく、少しだけ先につけて食べるとかですね。摂りすぎた塩分はもう仕方がありませんので、外食は思いっきり楽しんでいただければと思います。

楽しんだあとにやることも決まっています。健康な人であれば、家に帰ってからカリウムの多いもの——野菜、海藻、バナナなど——を食べます。カリウムを摂るとナトリウムが排泄される、というのが竹本氏の説明でした。

外食まわりで竹本氏が挙げたのは、次の4つです。

  • 麺類の汁は、まず3割残すところから始める
  • 寿司の醤油は、ネタに浸さず先に少しつける
  • 外食そのものは楽しむ。摂りすぎた分は帰宅後に調整する
  • 帰宅後は、野菜・海藻・バナナなどカリウムの多いものを食べる

なお、この判断をAIに任せられるのか、どこから人に確かめるべきかについては、別記事「管理栄養士に聞く、AIの食事アドバイスはどこまで信じていい?」で詳しく聞いています。

見分け方を4つたどってきましたが、竹本氏が最後に置いたのは、それらを不要にするような一言でした。本当に基本的にはバランスよく食べるだけ。たんぱく質とエネルギーになるもの、そして調子を整える野菜と果物を摂る。それだけなので、それ以上のことは考えなくても大丈夫だ、と竹本氏は言い切ります。

グラフのN数を確かめるのも、表示の「不足分」を読み解くのも、この土台を崩さないためです。何かを足す前に、いま食べているものが偏っていないか。竹本氏の話は、そこに戻ります。

取材日:2026年8月26日

編集プロダクション雨輝

この記事を書いた人

編集プロダクション雨輝

2014年創業。取材・執筆、編集、校正・校閲、ファクトチェックなど、コンテンツ制作を幅広く手がける編集プロダクション。正確性と信頼性を重視し、専門家への取材や一次情報の確認を通じた、質の高い情報発信に取り組んでいる。 https://amaterupro.jp/

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