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管理栄養士に聞く、AIの食事アドバイスはどこまで信じていい?

管理栄養士に聞く、AIの食事アドバイスはどこまで信じていい?

〜海苔を消化できるかどうかさえ、AIは1度も尋ねてこない〜

「肌をきれいにしたい」とAIに相談すると、ビタミンCの多い食材を教えてくれます。答えは丁寧で、すぐに試せます。ですがその会話のあいだ、AIはこちらの既往歴も、家族の体質も、1日にどれくらい体を動かしているかも、1度も尋ねてきません。

食品メーカーでの研究開発と国の医療機関での減塩の啓発を経て、現在は「みらいごはんラボ」を主宰する管理栄養士・竹本小百合氏は、AIを日常の仕事で使いながら、食の領域では「自分が思っている情報しか出せない」ことが落とし穴になる、と話します。

この記事で聞くのは、AIの食事アドバイスを、どこから信じてはいけないのかという1点です。体質の個人差、子どもの偏食、栄養素の摂りすぎの3つをたどりながら、AIに任せてよい作業と人に確かめる作業の線引きまで伺いました。

竹本小百合

竹本小百合

農学博士/管理栄養士。食品メーカーでの研究開発・広告職を経て、国の医療機関で減塩プロジェクトに携わり、学校給食のレシピ開発や食育教材制作を担当。現在は「みらいごはんラボ」を主宰し、未就学児から大人まで対象に、生活習慣病予防や偏食克服をテーマに活動。食育絵本の執筆、企業講演、サプリメント商品の監修、NHK食育番組出演など、食と健康に関する発信を幅広く行う。関西の子育て雑誌「まみたん」にも寄稿。

「自分が思っている情報しか出せない」——AIが尋ねてこない前提

竹本氏は、AIを遠ざけている専門家ではありません。SNSの投稿は自分でたたき台を作り、読み手に伝わる形に整える工程でAIを使います。コラムの執筆や、文献を検索するときにも活用しているといいます。

一方で、使わないと決めている作業があります。料理を作る工程と撮影は自分の手で行い、栄養価計算も、案を出してもらうところまでで止めて、最後は自分で食品成分表にあたります。理由は、AIが信用できないからではありません。食材の選び方が、そのまま数字を動かしてしまうからです。

栄養価計算をするとき、食材にいくつか種類があるんですが、お米にしても玄米を使うのか、生米を使うのか、もち米を使うのかとか、栄養士の計算が必要になります。海苔を使うだけでも、焼き海苔なのか、味付けの海苔なのかとか、栄養計算で出てくる用語が違うので、合わせて選ばないといけません。ツナ缶でも種類がとても多いので、ホワイトとかライトフレークとか油漬けとか。その中で自分が購入しやすいものを選んで使っていくところで、栄養価がずれてきます。

一般的な平均値でよければ、AIの数字で足ります。ですが、実際に自分が買う商品の栄養表示に合わせようとすると、そこは人が選ぶ工程になります。

この「条件を選ぶ」工程は、生活者がAIに相談するときも、そのまま抜け落ちます。

AIとだけやり取りしていくと、考え方が偏ってしまうというところと、自分が思っている情報しか出せないというところが課題になってきます。自分自身がどんな既往歴があって、家族がどういう体質であるか、普段の日常生活の活動量がどのくらいあるのか。活動のレベルによって摂取カロリーが決まってくるので、そこに合ったものが提案できるかというのは、とても難しいところです。
子ども向け活動を始めたきっかけは、出産だといいます。

たとえば海苔です。食物繊維が多いから勧められる食材ですが、消化できない人がいる、と竹本氏は言います。

海苔は外国の方は消化できないとか。栄養素的には繊維があるのでおすすめですと言われても、消化不良になって下痢になってしまったりとか。そういうことがありますので、体質はとても気をつけないといけません。

日本人のなかでも、牛乳が得意な人と苦手な人がいます。血圧も同じで、食事から影響を受ける人と、そうでない人がいる、と竹本氏は話します。ここを飛ばすと、減らす必要のない人が減塩に取り組み、その結果として食事量そのものが減ってしまう、という別の心配が出てきます。

聞く前に、自分の側の条件を渡すことになります。次の4つを質問文に入れておくと、答えが変わります。

  • 年齢と、1日にどれくらい体を動かすか(デスクワーク中心か、立ち仕事か)
  • 持病・既往歴と、飲んでいる薬
  • アレルギーと、体質的に合わないと感じている食品
  • その食事を誰が作り、どれくらいの期間続けるつもりか

ただし、前提を渡せば安全になる、という話でもありません。うまくいく場合もありますが、うまくいかなかったときに次どうしたらいいのかで行き詰まってしまいます。そこから先は専門の人に相談するのがいちばんいい、というのが竹本氏の答えです。

「1口だけ食べさせる」——いつも同じ形になるAIの偏食アドバイス

「野菜を食べない子にはどうすればいいですか」。保護者がAIに聞く場面は増えていきます。竹本氏自身も、いくつか聞いてみたといいます。

まずAIに聞いてみますと、一般的に出てくるものが偏っていまして。1口だけ食べさせるとか、見た目を工夫しましょうみたいなことがよく出がちなんです。そういうところがそもそも問題ではなく、実際はその発達段階での影響が高かったりします。

竹本氏が挙げたのは、食べ物の側ではなく、体と場面の話でした。いま奥歯がどのくらい生えていて、噛む力がどの程度あるのか。きちんと座れているのか。足で踏ん張って飲み込む力ができているのか。

もう1つが、食卓での関わり方でした。

ご飯を親が出して食べさせているときに、ずっと監視をしてしまっているのかとか。食べてとか、まだ食べてないとか、早く食べなさいとか。ある日、例えば置いておいて、ちょっと別のことをして、気がついたら食べていた、ということもあったり。一概にAIで偏食の食事を改善していくのは、なかなか解決にはつながりません。

子どもがその食べ物を嫌いだから食べていない、とは限らないということです。

竹本氏がこの点を強く言うのは、拾いきれなかった経験があるからです。「それを私も拾えるようにと思いまして」。そう言って挙げたのが、自身で作った「お野菜診断」でした。子どもがどんな野菜を食べているかという傾向と、食事を出す親がどう接しているかという行動を掛け合わせ、144のタイプに分けます。いまはそれを使って栄養相談を行っているといいます。

みらいごはんラボとして出展した、親子向けイベントの相談ブース。

同じ「野菜を食べない」でも、噛む力の問題か、座り方の問題か、声のかけ方の問題かで、打つ手は変わります。AIに聞く前に、次の3つは大人の側で確かめておけます。

  • 奥歯の生え具合と、噛む力に合った固さになっているか
  • 足が踏ん張れる椅子とテーブルの高さになっているか
  • 食べているあいだ、大人がどれくらい声をかけているか

「ビタミンCがいいですよ」と言われたあとに起きること

AIとの壁打ちは、答えが1つに絞られていく形で進みます。竹本氏が挙げたのは、肌をよくしたいと相談した場合の例でした。

1つの栄養素を、ビタミンCがいいですよと出てくると仮定しますと、ビタミンCのある食材ばかりを摂って、食事をしていくようになると思います。その場合に、過剰摂取が心配になります。サプリメントは一部の栄養素を多く含んだ食材になりますので、摂りすぎがとても心配です。

ビタミンCは水に溶けるため、一定量が入って出ていきます。ですが、同じ流れでビタミンAを勧められた場合は、話が変わります。

水溶性ビタミンと脂溶性ビタミン

ビタミンCやビタミンB群は水に溶ける「水溶性」で、多く摂った分は尿として排出されます。ビタミンA・D・E・Kは油に溶ける「脂溶性」で、体内にたまっていきます。同じ「ビタミン」でも、摂りすぎたときの挙動が違います。

脂溶性のビタミンは体内に蓄積されていくため、摂りすぎると過剰症という別の症状が出てくる、と竹本氏は言います。脂溶性ビタミンのうち、ビタミンA・D・Eには、摂りすぎによる健康障害を防ぐための耐容上限量が設定されているとのことでした。

では、どこまで摂ってよいのか。その数字は公開されています。

日本人の食事摂取基準とは

国が定める、エネルギーと栄養素の摂取量の基準です。栄養素ごとに、不足しないための「推奨量」と、これ以上は摂らないほうがよいという上限(耐容上限量)が示されています。一般に公開されているため、誰でも数値を確認できます。

竹本氏は、この基準をAIとのやり取りにも持ち込むことを勧めます。ガイドラインに沿って出してほしい、と条件をつけて聞けば、もう少し安心して摂取ができる、という言い方でした。

サプリメントは、AIが得意な範囲とそうでない範囲がはっきり分かれます。

サプリの種類を調べるということでは、AIはとても役に立てるかと思います。どういうものが世の中にあるのかは、なかなか調べるのが時間がかかるので。ただ、購入された際に、裏面に容量を守ってくださいと記載がされているので、いくつか種類を購入されたとしても、買われた後の注意事項、裏面をしっかりと読んでいただくことが重要かなと思います。

とくに注意が必要な領域として挙がったのは、3つでした。

ホルモン関連のものと、あとは脂溶性ビタミンです。そういうものは蓄積されやすいので摂りすぎに注意が必要ですし、オイル系のものも、酸化されているものを摂ってしまうと体に害が出てしまいますので、きちんと遮光されたオイルの商品かというところにも気をつけていただければと思います。

海外製のサプリメントも簡単に取り寄せられます。竹本氏が例に挙げたのは、抜け毛が気になる男性向けの、ホルモンが増えるとうたう商品でした。国内では認可されていないものや、即効性をうたうものが買えるようになっている、といいます。ホルモンは気分の浮き沈みにも関わるため、関連する診療科の医師に見てもらったほうがよい、というのが竹本氏の見方です。

表示されている摂取量そのものが、その国の基準である点にも注意が要ります。体格が違えば、書かれたとおりに摂ると過剰になることがあります。AIは、表記された数字をそのまま答えます。

  • 買ったあとに、商品裏面の1日の目安量を読む
  • ホルモン系・脂溶性ビタミン・オイル系は、AIの回答だけで決めない
  • 海外製は、記載の摂取量がどの国の基準かを確かめる
  • 飲んでいる薬がある場合は、医師か薬剤師に見てもらう

AIに任せていい作業と、人に確かめたほうがいい作業

境界線はどこに引かれるのか。竹本氏の答えは、作業の種類で分かれていました。

AIに任せてよい作業としては、情報の収集や、選択肢を増やす点で、とても重要かと思います。栄養価計算もほとんど間違いはないので、実際私がして比較しても変わりはなかったので、一般的な栄養価計算とか、レシピのたたき台とか、文章の作成とか、そういうものは使って問題ないかと思います。

一方、専門家の確認が必要なものとして挙がったのは、個人の健康状態や既往歴、使っている薬を踏まえた判断でした。加えて竹本氏が挙げたのが「続けられるか」です。AIは、続けられないものも提案してくるためです。

線引きが分かりやすく出るのが、写真からのカロリー計算です。撮って送れば数字が返ってくる使い方は、すでに広がっています。

だいたいの目安はつくのですが、30kcalぐらい外れていることもあります。食材が複雑になればなるほど、どんどん乖離していきます。

写真に写らないものがあります。塩と油です。お寿司の写真からは、醤油をどれくらいつけたかは分かりません。数字は返ってきますが、その数字が何を見ていないのかは書かれていません。

整理すると、線はこう引けます。

  • AIに任せてよい——どんな選択肢があるかを集める、一般的な栄養価計算、レシピのたたき台、文章づくり
  • 人に確かめる——既往歴や服薬を踏まえた判断、自分が続けられる形への落とし込み、情報の質、責任が発生する場面
「子どもや大人の足を止める工夫」は経験の領域だと話します。

AIの精度が上がったとき、専門職に残るのはどこか。情報を伝える仕事はほぼAIに頼ってよくなり、その分だけ求められるスキルは高くなる、というのが竹本氏の見立てです。情報を使って、どういう食事を美味しく作るのか。そこは経験だと話します。

なお、その情報そのものをどう見分けるか——研究データの読み方、商品表示の落とし穴、発信する人の選び方——については、別記事「「バランスよく食べるだけ」農学博士が語る健康情報の見分け方」で竹本氏に伺っています。

AIは、条件を渡せば渡すほど答えを絞ってきます。ですが、絞り込む前に必要だった条件——既往歴、体質、活動量、噛む力、続けられるかどうか——を、AIの側から尋ねてくることはありません。竹本氏の話に一貫していたのは、AIが落とすのは知識ではなく前提だ、という1点でした。

選択肢を集める、たたき台を作る、一般的な数字を出す。そこまではAIで足ります。その先、自分の体と生活に合わせて1つに決める工程は、まだ人の側に残っています。

取材日:2026年8月26日

編集プロダクション雨輝

この記事を書いた人

編集プロダクション雨輝

2014年創業。取材・執筆、編集、校正・校閲、ファクトチェックなど、コンテンツ制作を幅広く手がける編集プロダクション。正確性と信頼性を重視し、専門家への取材や一次情報の確認を通じた、質の高い情報発信に取り組んでいる。 https://amaterupro.jp/

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