
エステ講師に聞く、生成AIの美容情報はどこまで信じていい?
〜生成AIは、実在しない論文を根拠として挙げてくることがある〜
毛穴の詰まりに効く成分は何か。生成AIにそう尋ねると、数秒で整った答えが返ってきます。参考にした論文の著者名と発表年まで添えられていることもあります。ですが、その論文を実際に探してみると、どこにも見つからないことがあります。
東京・下北沢でエステサロンとスクールを営みながら、美容コラムの執筆や記事監修も手がけてきた永松麻美氏は、まさにそれを経験しました。書く側として、そして人に教える側として、AIとネットの美容情報をどう扱っているのか。この記事では、情報を受け取る人と、情報を作る人の両方に向けて、永松氏が実際に使っている確かめ方を聞きます。
永松麻美
エステティシャン/エステ講師。東京都世田谷区下北沢でエステサロン&スクール「SUHADA」を運営するオーナーエステティシャン兼講師。サロン運営14年目、業界歴は20年近くに及ぶ。初心者からエステサロン開業を目指すための技術・知識スクールを主宰し、美容家としてTV・雑誌等のメディア出演や記事監修も多数行う。著書に『正しい知識がわかる 美肌事典』『シワとりパーフェクトブック』『表情筋ほぐし』など。皮膚理論に基づき現場に根差した指導と、受講生に寄り添い可能性を全力で応援する温かい人柄が支持されている。
「その論文、どこにも出てこなくて」——AIが差し出した“根拠”
永松氏は、AIを遠ざけている専門家ではありません。情報の整理、文章の誤字脱字の洗い出し、書いたコラムの二次利用。日々の仕事のなかで、当たり前のように使っています。そのうえで、はっきり手が止まった経験があります。
調べ物をしていたときのことです。AIの回答には、根拠として論文が添えられていました。
もう1つ、永松氏が挙げたのは、AIが「聞かれなければ答えない」ことでした。ある成分について調べていたとき、最初の回答には、とくに注意すべき点は書かれていなかったといいます。そこで、以前に見た記憶をたどって尋ね直しました。
質問した人が知っている範囲までしか、リスクは表に出てきません。調べる側の知識が、そのまま回答の中身を決めてしまうということです。永松氏はこの点を「危ないですね」と表現しました。
次の3つは、AIの回答を根拠として使う前に確認します。
- ・挙げられた論文・書籍・統計を、実際に検索して現物にあたる(見つからないものは根拠として使わない)
- ・「注意点やリスクはないか」「反対の見解はないか」を、こちらから追加で聞く
- ・出てきた注意点が最初の回答に入っていなかった理由を考える(自分の質問が浅かった可能性を疑う)

「これ、自分が書いたって言えるのか」——AIに任せない一線
永松氏は、ホームページのコラム、note、アメブロ、そしてショート動画の概要欄と、複数の媒体に文章を出しています。媒体ごとに読者が違い、文字数の上限も違うため、以前は1本ずつ書き分けていたそうです。
いまはそこにAIを使っています。ただし、使う場所を決めています。
検索エンジンだけでなく、AIから読まれることも意識しています。AIが引用しやすい形で出力するよう指示を出したり、コラムの説明文やキーワードを表示されやすい形にしたりしています。サロンの新規のお客様に来店のきっかけを尋ねると、AIで調べて来たと答える人がちらほら出てきたそうですが、これは狙ってやっていることだと話します。
| LLMOとは |
|---|
| 生成AIの回答に自社の情報が引用されやすいよう、文章の構成や表現を調整する取り組みを指します。検索エンジン向けのSEOに対して、AI向けの最適化を指す言葉として使われています。 |
では、AIが出した文章をそのまま公開することはあるのでしょうか。ここで、永松氏の言葉は強くなります。
成分の話になると、確かめる先はAIの外に出ます。ビタミンCの美容液にどんな効果があるか、といった一般的な質問なら、AIの回答で足りると永松氏は言います。ですが、ビタミンC誘導体には複数の種類があり、それぞれ働きが違い、濃度や種類によっては刺激になるものもあります。そこまでは出てこない、と話します。


媒体によって大きく変わる、書ける内容
永松氏は美容メディアに寄稿する立場も経験しています。その立場から見えているのは、同じ美容の話でも「どこに載っているか」で確かめられ方がまるで違う、という事実です。
とくに大手メーカーの製品を扱うコラムでは、効果に関する記述がほとんど通らないこともあったといいます。何重にもチェックが入る構造になっているぶん、変なことは書けません。ただ、その安全と引き換えに失われるものがある、というのが永松氏の見立てです。
反対側にあるのが、誰でも発信できる場所です。ショート動画やSNSには、公開前にチェックを入れる層がありません。そのぶん、話は届きやすい形に整えられています。
しかも、発信者の肩書きは判断材料になりきりません。永松氏は、インフルエンサーと芸能人の差がなくなってきていること、医師のような肩書きを持つ人がインフルエンサーとして発信していることを挙げたうえで、次のように話しました。
肩書きが同じでも結論が割れるのなら、肩書きだけを頼りに正しさを決めることはできません。読む側に残る手がかりは、別のところにあります。

情報を読む前に確認しておきたい発信元
永松氏がまず挙げたのは、内容の正誤ではなく、その情報の出どころでした。
好き放題言えるものを、そのまま事実として受け取ると事故が起きます。だから永松氏は、読み方そのものを2つに分けています。
この切り分けは、文章を読んで「AIっぽい」と見抜けるかどうかとは別の話です。永松氏は、自分でAIを使って文章を作る人はなんとなく判別がつくけれど、作らない人には難しいだろう、と見ています。見抜く力を上げようとするより、はじめから枠を分けておくほうが確実だ、ということになります。
読む側の見極めは、書く側から見ると別の景色になります。永松氏は、書き手の価値の置かれ方そのものが変わってきていると見ています。
読む側の「誰の発信か」と、書く側の「誰が書いたか」は、同じことを裏表から言っています。文章を作る手間が下がったぶん、その文章を誰が引き受けているのかが、判断の材料として残ったということです。
取材の終盤、永松氏は「使いこなすためにすごく労力を割くのが、本当に効率がいいのかどうか、ちょっとよくわからない」とも話していました。AIを日常的に使っている人の実感として、これは正直な言葉だと思います。
美容情報に触れたとき、次の順で確認すると、判断を間違えにくくなります。
- ・誰が、どこで出している情報かを見る(個人の発信か、公開前にチェックが入る媒体か)
- ・個人の発信は、まずエンタメの枠に入れる。買う・試すの判断材料にはしない
- ・事実として使いたい情報は、公的機関やメーカーの公開資料など、別の枠から取り直す
- ・自分の肌に当てはめる段になったら、情報ではなく人に当たる

なお、その「人に当たる」段階で専門家が何を見ているのか——施術歴や体質のうちAIに渡らないものは何か、触ってはじめて分かることがどこまであるのか——については、別記事「脱毛の翌日に毛穴パックはNG!エステティシャンが語るAI肌相談の限界」」で伺っています。
永松氏の話を通して見えてきたのは、情報を確かめる作業が、AIの登場でなくなるどころか増えているということでした。AIが挙げた根拠は現物にあたります。注意点はこちらから聞きます。深いところは専門の資料に戻ります。そして読むときは、その情報がどの枠から出てきたのかを先に決めます。手数は増えますが、どれも特別な知識を必要としません。「これ、自分が書いたって言えるのか」という問いは、書く人だけのものではなく、情報を選んで使うすべての人に向いています。
取材日:2026年8月20日
取材写真:Zoom取材時のスクリーンショット(編集部)/サロン・スクールの写真:永松麻美氏提供
この記事を書いた人
編集プロダクション雨輝
2014年創業。取材・執筆、編集、校正・校閲、ファクトチェックなど、コンテンツ制作を幅広く手がける編集プロダクション。正確性と信頼性を重視し、専門家への取材や一次情報の確認を通じた、質の高い情報発信に取り組んでいる。https://amaterupro.jp/



