
技術者のキャリア棚卸しを、キャリアコンサルティング技能士が語る
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〜技術者の経験を、「波形を見ていました」で終わらせない〜
「こういう業界でやってました」。技術者にキャリアの相談を受けると、まずこの形の答えが返ってくるといいます。それでは、社外の人に何も伝わりません。
森田智比呂氏は、電機メーカーで20年ほど設計・開発の現場に立ったのち、キャリアコンサルティング技能士として相談の側へ移りました。職業訓練校などで、技術者に限らず幅広い相談に応じています。
技術力は落ちていないのに、なぜ経歴だけが弱く見えるのか。そして、自分の経験をどう棚卸しすれば次につながるのか。技術者出身の相談員に伺いました。
森田智比呂
2級キャリア・コンサルティング技能士/カラリスト。大手電機メーカーにて約20年間、製品開発エンジニアとして設計・開発・事業化に従事。その後、キャリアコンサルタントとして独立し、大学、職業訓練機関、人材紹介企業等にて、幅広い層を対象にキャリア相談やセミナー講師を担当。これまで4,000名以上の相談実績を持つ。色彩分野では、色彩理論、カラーコーディネート、パーソナルカラー診断にも対応。近年はWebメディアにてキャリア・転職分野を中心に記事監修・執筆も行う。技術職とキャリア支援の両分野で培った経験を活かし、制度や理論だけでなく、現場感覚を踏まえた監修を強みとしている。
技術者が転職で損をする理由は、技術ではなく表現力
森田氏がキャリアの相談に乗るようになって、15年ほどになります。主な場は職業訓練校で、相談に来るのは20歳前後から60代まで、男女を問いません。技術者に限った仕事でもありません。リモートで1対1で話し、その人の個性を聞き出しながら、職務経歴書や履歴書を作っていきます。
技術者の相談で最初に見えてくるのは、技術力ではなく表現力の差だといいます。
他の職種と並べると、その差はさらに開きます。
何が足りないのか。森田氏が挙げたのは、比喩でした。「言葉を例えて言えばどういうことですか、が下手なんですよ」。技術の説明は正確でも、相手の知っているものに置き換える一手間が抜ける、という指摘です。
もうひとつが専門用語です。自分が知っている世界のことは、相手も知っていると思ってしまいます。森田氏は自分の担当領域を例に出しました。
SIは、信号がきちんと伝わっているかを確かめる技術のことです。ちなみにこの日の取材でも、記者が「僕たちの業界だと単位を表すんですよね」と応じる場面がありました。同じ2文字が、業界をまたぐと別のものを指します。まさにその実演になっていました。
では、通じないから使わないほうがよいのか。森田氏の答えは逆でした。面談の入口では、あえて相手の専門用語を自分から出すといいます。
面接でも面談でも、次の3つは自分で用意しておけます。
- ・使っている専門用語を、業界の外に通じる言葉へ置き換えておく
- ・自分の仕事を「たとえば〜のようなもの」と言い換える文を、ひとつ作っておく
- ・相手がどこまで分かるかを、話の入口で確かめる


「波形を見ていました」で止めない棚卸しの掘り方

相談の場で最初に返ってくるのは、たいてい「こういう業界でやってました」「こういう仕事をやってました」という形です。森田氏はそこで止めず、中身を聞きます。
そこまで掘ると、経歴の外へ出られます。
同じやり方は、技術者以外の相談にも使えます。森田氏が挙げたのは、スチール缶の工場でリストラに遭った人たちの例でした。求人サイトの検索窓に「缶」と入れても、仕事はほとんど出てきません。ペットボトルが普及して、缶そのものが減っているためです。
森田氏はこれを「バリエーションを考える」と呼びます。設計をしていた頃に、この製品はこう使われる、こんな使い方もできると先回りして仕込んでいた作業と、同じことだといいます。
なお森田氏は、相談で求人そのものを紹介することはしません。代わりに「どういう転職活動をしますか」と聞き、探し方を一緒に決めます。どの求人サイトを見るか、検索窓に何と入れるか。棚卸しは、その検索語にたどり着くための作業でもあります。
- ・職種名や製品名ではなく、実際にやっていた作業を書き出す
- ・その作業で何を見て、何を基準に判断していたかを1段掘る
- ・判断の対象を言い換える(「電気信号」を「データ」へ、「缶」を「容器」へ)
- ・言い換えた言葉で、実際に求人を検索してみる
資格とスキル、別々のもの

資格をどう見るか。森田氏の答えは、エンジニア時代の経験から来ています。その世界では最上位とされる無線の資格を持つ人が、職場に来たときのことでした。
逆の例もあります。工場の組立ラインで、設計した本人である森田氏よりも、精密な部品をうまく入れられる人がいました。ドライバーを回すことに資格はありません。
資格を持っていることと、それで何ができるかは別。だから森田氏は、資格を並べる代わりに「じゃあ、それをどういう風に活かすか」を話すといいます。
40代・50代からの相談で多いのは、技術についていけるか、管理職か技術職か、定年後も働けるか、自分の経験が社外で通用するか。森田氏の答えは、どれも表現力次第だという1点に戻ります。ハイクラス向けの求人自体は多く、その層で相談に来た人には、専門の転職サイトを勧めることもあるといいます。
年齢についての見方は、はっきりしていました。40歳を過ぎると転職が難しくなるのは事実で、それは仕方がない、と森田氏は言います。ただし、できないわけではありません。探し方によって使えるものはある、という立場です。
履歴書の書き方も、同じ視点から説明します。誰が読むのかを先に置きます。
書類を「自分の説明」ではなく「相手が読むもの」として作り直すこと。棚卸しの最後は、この視点の入れ替えでした。

「技術は全部なくなります」——AI時代に残るもの
生成AIについて聞くと、森田氏はまず「どんどん活用してます、実際自分で」と答えました。そのうえで、留保を2つ置きます。時間をかけすぎないこと。そして、嘘が混じると知っておくことです。
「チャッピー」はChatGPTの俗称です。危ないのは、誰かの発言ではなく、AIの出力をそのまま根拠にしてしまうことだという指摘でした。
では、誤りをどう見つけるか。森田氏の方法は、AIをもう1台使うことでした。
そのAIの仕事自体も、いずれなくなると森田氏は言います。
例に挙がったのは、かんざしの職人、時代劇のかつらの職人、そして駅で切符を切っていた人たちでした。仕事の形が変わっても、その人たちが消えたわけではありません。
読者へのメッセージを尋ねると、答えは「文章化すること」でした。「AIのエンジニアです」では、実は何も伝わりません。AIで何をやっているのか、何を評価しているのか、どこを開発しているのか、そのためにどんな知識を使っているのか。そこまで書きます。
そして森田氏は、その作業自体にAIを使ってよいと言い添えました。
AIの答えをそのまま使わないために、森田氏が実際にやっていることを整理すると、次のようになります。
- ・別のセッションを立てて、同じ内容を検証させる
- ・出てきた反論を元のAIに戻し、調べ直させる
- ・最後は「AIがこう言った」ではなく「自分がこう考えた」と言える形にする
最後に、技術者へ勧める1冊を伺いました。返ってきたのは、50年以上前に書かれたSFでした。星新一の小説です。テレパシーで離れた人の声が聞こえる話は、いまのスマートフォンに見えます。記憶をなくした男が「このカードが1枚あれば分かるんですけど」と言う話は、いまの本人確認の仕組みに見えます。
なお、森田氏が設計者として何を見ていたのかは、記事「製品開発エンジニアが語る、開発室で動く回路が家庭で壊れる理由」にまとめています。ここで出てきた「波形を見る」の中身も、そちらで具体的に語られています。
技術は入れ替わります。資格は、できることを保証しません。それでも残るのは、何を見て、何を基準に判断していたかという中身です。森田氏がやっているのは、その中身を相談者から引き出して、業界の外に通じる言葉へ置き換える作業でした。棚卸しとは、経歴を並べ直すことではなく、自分がやってきたことを別の言葉で言えるようにしておくことなのだと思います。
取材日:2026年8月17日
撮影:編集部
この記事を書いた人
編集プロダクション雨輝
2014年創業。取材・執筆、編集、校正・校閲、ファクトチェックなど、コンテンツ制作を幅広く手がける編集プロダクション。正確性と信頼性を重視し、専門家への取材や一次情報の確認を通じた、質の高い情報発信に取り組んでいる。https://amaterupro.jp/



