
公認会計士が語る、AIに任せていい仕事と「絶対残る」仕事の境界
〜境目にあるのは、最後に誰が責任を取るかという1点〜
AIが仕事を奪う、という話題に会計や経理が挙がります。仕訳も計算も決まった手順が多く、置き換えやすい領域に見えるからです。実際、生成AIの明らかな誤りはこの1年でかなり減りました。
神戸で開業する公認会計士の安田亮氏は、自身の業務で複数の生成AIを使い分けながら、記事監修の依頼を受け続けています。AIに渡してよい仕事と、人が引き受けるべき仕事の線はどこにあるのか。伺ったのは、その線を引くための基準です。実際に渡している作業、「絶対残る」と言い切った領域、そして新人の仕事から先に置き換わっていくという現場の見立てを伺いました。
安田亮
公認会計士/税理士。京都大学経済学部卒。2008年公認会計士試験合格。大手監査法人に勤務し、その後、東証一部上場企業に転職。連結決算・連結納税・税務調査対応などを経験し、2018年に神戸市中央区で独立開業。大手企業向けの連結決算コンサルティングや、グループ通算制度など複雑な法人税務に強みを持つ。また、会計・税務・資金調達・起業・M&Aなど幅広いテーマで記事監修に携わっており、監修実績は600件を超える。
AIに任せていいのは、「最悪間違ってもダメージがない」仕事
安田氏が業務で使っているのは、ChatGPTとClaude、そしてChatGPTから派生したCodex(指示を受けてプログラムを書き、実行まで進めるツール)です。どこに渡し、どこで自分の手に戻すのか。まずは実際の使い方から聞きました。
最も使うのは、記事監修の最初のチェックだといいます。自分でも読みながら、同時にAIにも読ませます。
顧問先から質問を受けたときも、いきなり答えを作らせるわけではありません。どこが争点になりそうかの見当をつけるために、いったんAIに投げるのだといいます。
もう1つ、最近になって増えた使い方があります。クラウド会計ソフトのfreeeとClaudeをつなぎ、月ごとの数字をExcelに書き出す作業です。きっかけは、パソコンの操作が苦手な顧問先でした。
AIが登場する前から続けていた対応で、そこが短縮された形です。では、任せてよいかを何で判断しているのか。安田氏の基準は、外したときの被害の大きさでした。
この基準で振り分けると、渡してよい仕事は次のようになります。
- ・資料の要約
- ・会議で論点になりそうな候補の列挙
- ・チェックリストの下書き
- ・定型的な計算の補助と、整合性のチェック
- ・別の形式への転記(会計ソフトから表計算ソフトへ、など)

人に残る、最後のゴーサイン

逆に、渡さないと決めている領域があります。安田氏はそれを「物理的な話になるんで人間しかできない」ものと、判断そのものを担うものに分けて挙げました。
選択肢を並べて有利なものを選ぶこと、リスクを見積もること、最終成果物を確定させること。技術的にはAIが下書きできても、渡さないという判断です。その理由を、安田氏は責任の所在という言葉で説明しました。
任せるかどうかを迷ったときは、次の3つを順に見ます。
- ・外したとき、誰にどれだけの被害が出るか(最悪の結果で判断する)
- ・答えが1つに決まる作業か、選択の余地がある作業か
- ・その成果物に、自分の名前で責任を負う必要があるか

先に置き換わるのは、新人の仕事
では、いま現場はどこまで変わっているのか。安田氏の見立ては、意外にも落ち着いたものでした。
歯止めになっているのは、技術の水準よりも社内規程のほうでした。使ってよいツールが限られている企業もあるといいます。
その変化が起きたとき、最初に影響を受けるのはどの層なのか。
大企業の会計担当は利益に直結しにくく、人件費を削る余地があるのではないかと尋ねると、安田氏は「大企業だとそうですね。結構削る余地はあるかなと思いますね」と答えました。入り口が細くなる一方で、AIを使いこなす前提となる知識は、その入り口で身につくものでもあります。経験の浅い人がAIに頼ったときのリスクを聞くと、返ってきたのは強い言い方でした。
答えが手に入ることと、その答えを説明できることは別です。

それでも増えている、「専門家が見た」記事の需要
AIに任せられる範囲が広がれば、確認する仕事は減りそうに思えます。ところが記事監修の依頼について、安田氏の実感は逆でした。前提として、AIの出力そのものの精度はすでにかなり上がっているといいます。
それでも依頼は減っていない、と続きます。むしろ、明らかにAIが書いたと分かる記事の監修依頼が増えているそうです。
求められているのは、誤りを見つける作業そのものより、専門家が確認したという事実のほうだという見方です。安田氏自身は「意外と監修の仕事はなくならないのかなと、今の段階では思っています」と話しました。
同じ変化は、税理士という職業の中身にも及びます。
これから税理士を目指す人、資格を取ったばかりの人に向けて何を伝えたいかを尋ねると、安田氏が挙げたのは、知識量ではなく、説明する力と学び続ける姿勢でした。
安田氏が挙げたのは、資格は取れたものの、聞いてもAIと同じ答えしか返ってこない、という状態でした。
明日から手を動かすなら、次の3つが起点になります。
- ・自分の業務を、外したときの被害の大きさで並べ直す(小さい順から渡す)
- ・渡した作業には、必ず自分の目での二重チェックを残す
- ・AIの回答を、顧問先や社内に自分の言葉で説明できるかを確かめる
なお、そのAIの回答が具体的にどこで結論を取り違えるのかは、別記事「税理士に聞く、AIが出す税金の答えは、どこで間違えるのか」にまとめています。
AIが速く正確になるほど、調べて答えるところの値段は下がっていきます。安田氏が「絶対残る」と言い切ったのは、その先にある部分でした。事実を集め、選択肢を並べ、最後にゴーサインを出すところです。任せる範囲を広げることと、決める責任を手放すことは別のことでした。自分がどこに線を引いているのかを言葉にできるかどうかが、そのまま専門家の輪郭になります。
取材日:2026年8月19日
この記事を書いた人
編集プロダクション雨輝
2014年創業。取材・執筆、編集、校正・校閲、ファクトチェックなど、コンテンツ制作を幅広く手がける編集プロダクション。正確性と信頼性を重視し、専門家への取材や一次情報の確認を通じた、質の高い情報発信に取り組んでいる。 https://amaterupro.jp/



