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不適切表現チェックリスト|炎上リスクを下げる校閲の視点と言い換え

不適切表現チェックリスト|炎上リスクを下げる校閲の視点と言い換え

2026,08.27

校正・校閲校閲不適切表現炎上対策
佐藤 拓夫

佐藤 拓夫

法律・美術分野を中心に、校正・校閲、ファクトチェック、リライト業務を担当。パラリーガルおよび書籍編集者として15年以上の実務経験があり、法務関連文書や専門性の高い記事における事実関係、表記、論理構成の確認を得意としている。現在は企業サイト、専門コラム、取材記事などを対象に、正確性と読みやすさの両立を意識した校正・校閲を行う。

2025年7月、米アパレル大手アメリカン・イーグルの広告コピーが大きな論争になりました。「Sydney Sweeney has great jeans」——「jeans(ジーンズ)」は「genes(遺伝子)」と同じ発音です。遺伝子は髪や目の色、性格まで決めることが多いというナレーションのあと、金髪で青い目の女優が「私のジーンズは青い」と語ります。この組み合わせが優生思想を連想させるとして、批判が広がりました。同社は8月1日、最初からジーンズの話だという趣旨の声明を出しています。

批判した人たちが読み取ったのは、コピー単独の意味ではありません。言葉と、その隣に置かれた要素との組み合わせでした。

「うちのコンテンツに差別的な表現はない」と考えていても、公開後に思わぬ批判を受けることはあります。問題になるのは、露骨な差別語だけではありません。属性への決めつけ、必要のない一般化、時代によって受け止められ方が変わった言い回しなど、書き手に悪意がなくても読者との間にずれを生む表現があります。そして厄介なことに、書いた本人にはそれが見えません。

こうした表現は、誤字脱字や数字、固有名詞の確認だけでは拾いきれません。公開前にどこで立ち止まり、どのような基準で残す・直すを判断するか。本記事では、不適切表現を見直すためのチェック項目、悪意なく問題になりやすい典型パターン、言い換え例と判断軸を、実務での指摘例とあわせて整理します。読み終える頃には、自社の記事を公開前に点検する「型」が身についているはずです。

校閲が見るのは誤字脱字だけではない

校閲と聞くと、誤字脱字の修正や事実確認を思い浮かべる人が多いでしょう。もちろん、それらは重要な仕事です。ただし企業のコンテンツでは、文法的にも事実関係にも誤りがないのに、読み手に不要な違和感や反発を生む表現があります。

たとえば「主婦目線の便利グッズ」という表現。商品や媒体の対象が明確に主婦層であるなら、この言葉が直ちに不適切とは限りません。しかし、家事をする人全般に向けた記事で用いると、「家事を担うのは主婦である」という前提を含んで読まれる可能性があります。

問題は「主婦」という単語そのものではなく、文脈上必要な属性なのか、無意識の固定観念を持ち込んでいないかです。

内閣府は2003年に「男女共同参画の視点からの公的広報の手引」を策定し、公的機関の広報・出版物について、性別に基づく固定観念にとらわれない表現を促してきました[1]。

また、2026年3月に閣議決定された第6次男女共同参画基本計画でも、固定的な性別役割分担意識や性差に関する偏見・固定観念、無意識の思い込み(アンコンシャス・バイアス)の解消が課題として挙げられています[2]。

こうした考え方を具体的な表現のチェックに落とし込んだ資料の一つが、大阪府の「男女共同参画社会の実現をめざす表現ガイドライン」です[3]。同ガイドラインも、情報の受け手が固定的な性別役割分担意識を形成する可能性に触れ、情報発信側に固定観念や偏見を助長しない表現への配慮を求めています。

表現チェックでは、単語を機械的に禁止するより、「その属性を出す必要があるか」を問うほうが実務的だといえるでしょう。

不適切表現はなぜ書き手本人が見落としやすいのか

書いている本人が不適切表現を見落としやすいのは、日常生活で使い慣れている言葉や、身近な環境では問題なく通じてきた言葉である場合が多いからです。

たとえば「ご主人」「奥さま」は、場面によっては丁寧な呼び方として機能しますし、実際、普段の生活では違和感なく使っている人も多いでしょう。

しかし、不特定多数に向けた記事で一律に用いれば、家族のかたちを狭く想定していると受け取られるリスクがあります。校閲では、言葉の表面だけではなく、そこにどのような前提が置かれているかを見る必要があります。

公開前に確認したい6つの視点(性別・年齢・職業・国籍や地域・障害や身体・家族像)を、それぞれの注意点とともにカードで並べた図

不適切表現のチェックリスト|まず確認したい項目6つ

センシティブな表現は範囲が広いため、漫然と読むだけでは見つけにくいものです。まずは以下の6つの項目を目安にチェックしてください。

項目確認したいポイント
性別家事・育児・力仕事などの役割を性別に結びつけていないか。文脈上不要な性別の明示や、外見への不用意な言及がないか。
年齢「若いから」「高齢だから」と能力・感性・ITスキルなどを一括りにしていないか。
職業職業間の序列を感じさせる表現、特定職種への固定的なイメージを持ち込んでいないか。
国籍・地域・民族国民性・県民性などを断定していないか。「外国人」など大きな集団を一枚岩として扱っていないか。
障害・疾患・身体的特徴障害や疾患を侮蔑的な比喩として使っていないか。身体的特徴を評価対象にしていないか。
家族像・ライフスタイル「普通の家庭」「ご両親」など、特定の家族像や生き方を標準とする前提を置いていないか。

以上の6つで十分というわけではありません。ほかにも性的指向・性自認、宗教・信条、学歴、収入、雇用形態、妊娠・出産、子どもの有無、介護、犯罪・災害の被害経験なども、文脈によっては注意が必要です。

悪意がなくても問題になり得る3つの典型パターン

悪意がなくても起こりやすい3つのパターン(属性の決めつけ・過度な一般化・古い制度名や言い回し)を、例とともに左から順に示した図

パターン1|属性の決めつけ

「〇〇な人は△△だ」と、属性から性質や役割を導く型です。「女性ならではの細やかな気配り」「シニアでも簡単に使える」など、褒め言葉や親切のつもりで書かれた表現にも決めつけが隠れています。属性そのものではなく、実際に伝えたい機能や行動に言い換えられないかを確認しましょう。

日本郵政が2025年3月に公式アカウントへ投稿した「絶対にすっぴんを見られたくない女VSなんとかサインをもらわなければいけない配達員」という動画は、女性をばかにしている、「すっぴん=恥」という固定観念を助長しているといった批判を受け、翌日に削除されました。同社は、お客さまに不快な思いを抱かせてしまったと判断したためと説明し、再発防止に取り組むとしています。タイトルの一行だけを取り出しても、女性はこうだという前提が置かれていることが分かります。人を短い言葉で類型化して名前を付ける書き方は、それ自体が決めつけとして読まれます。

決めつけが起きるのは、広告やキャンペーンだけではありません。SmartHRでは2025年12月2日、自社のアドベントカレンダー企画として公開された記事が問題になりました。タイトルは「チンパンジーが配属されてきたら、あなたはどうマネジメントする?」。極端な設定でマネジメントの考え方を説明する内容でしたが、人間をチンパンジーにたとえた比喩ではないかという指摘が相次ぎます。同社は12月8日、「人を異なる動物に例えたように映る表現」で不快な思いをさせたとして公式サイトにお詫びを掲載し、記事も削除されました。読み手が受け取るのは、書き手が込めたつもりの意図ではなく、文字として置かれた言葉のほうです。

パターン2|過度な一般化

「日本人なら誰でも」「今どきの若者は」のように、大きな集団を一括りにする型です。統計など根拠がある場合でも、母集団・調査時点・条件を外して一般化すれば、事実以上の断定になります。「〜が多い」「〜という傾向がある」と弱めればよいとは限らず、その傾向を裏づける根拠があるかまで確認する必要があります。

パターン3|古い制度名・言い回しの残存

長く使われてきた名称や言い回しが、制度変更や社会的な受け止め方の変化に取り残される型です。代表例の一つが「看護婦」です。厚生労働省の資料では、2001年(平成13年)12月12日公布、2002年(平成14年)3月1日施行の法改正によって、看護婦(士)という資格名称が「看護師」に変更されたことが確認できます[4]。これは表現の配慮の問題ではなく、現行の正しい名称で記述できているかという単純な事実確認レベルの問題といえるでしょう。

実例①|旧称を現行名称に直す場合でも、引用は別に考える 人物紹介の記事で、地の文に「看護婦として20年以上勤務したAさん」とあったケースです。現在の職種を説明する文章なら、現行の正式名称に合わせて「看護師として20年以上勤務したAさん」と直すのが基本です。 修正前:「看護婦として20年以上勤務したAさん」 修正後:「看護師として20年以上勤務したAさん」 しかし、過去の資料や本人の発言を引用する場面まで一律に「看護師」へ置き換える必要はありません。引用は原文を尊重し、必要であれば当時の呼称であることを補足すれば足りる場合もあるからです。地の文と引用を同じルールで処理しないことも、校閲では重要です。

言い換えの考え方|配慮と分かりやすさを両立する

不適切かもしれない表現を見つけるだけなら、それほど難しくはありません。問題は、「では、どう直すか」です。言い換えの目的は、属性への言及を消すことではありません。文章が本当に伝えたい情報を残しながら、不要な決めつけだけを取り除くことにあります。具体例で考えてみましょう。

元の表現(例)言い換え例確認したい点
主婦の方でも簡単に設定できます機械の操作に慣れていない方でも簡単に設定できます伝えたいのが「操作の簡単さ」なら、性別・家族上の立場を持ち出す必要はない。
シニアでも使いやすいスマホです文字が大きく、基本操作を分かりやすくしたスマホです年齢ではなく、使いやすさを支える具体的な機能を示す。
日本人なら誰でも知っている国内で広く知られている読者全員の知識や国籍を決めつけず、必要なら認知度の根拠を示す。
女性ならではの細やかな接客細部まで気を配った接客評価したい行動をそのまま書き、性別と能力を結びつけない。
ご主人・奥さま配偶者/パートナー(文脈に応じて)不特定多数向けの文章で、特定の夫婦像や役割関係を前提にしていないかを確認する。本人への呼びかけなどでは、文書の性質も踏まえて判断する。

属性の語を使ったから直ちに不適切というわけではありません。女性向け商品の紹介、特定年齢層を対象とした制度案内、当事者への取材など、属性への言及そのものが情報の中心になる場面もあるからです。大切なのは「なぜここで使うのかを説明できること」です。

言い換えすぎないための3つの判断軸

配慮を意識するあまり、すべての属性表現を消すと、誰に何を伝えたいのか分からない文章になります。次の3点で判断しましょう。

  • その属性への言及は、情報を理解するために必要か。削っても意味が変わらないなら、必要のない属性表現である可能性があります。
  • 属性ではなく、行動・機能・条件を具体的に書けないか。年齢や性別を理由にするより、使いやすさやサービス内容を説明したほうが情報量は増えます。
  • その表現に事実上の根拠があるか。とくに「〜が多い」「〜な傾向がある」といった表現は、断定を弱めただけで根拠不足が解消するわけではありません。

以上の3点をクリアすると、「配慮した結果、誰にも何も伝わらない文章」と「無意識の決めつけを残した文章」の両方を回避しやすくなります。

配慮を優先するあまり、対象読者や商品の特徴まで曖昧にすれば、文章本来の役割を果たせなくなります。伝える必要のない決めつけは外し、伝えるために必要な属性は残すという線引きが重要です。

実例②|属性語を一律に消すのではなく、必要な場所だけ残す たとえば、対象読者をシニア層としたスマートフォン選びの記事で、タイトルが「シニア向けスマートフォンの選び方」、本文に「シニアでも簡単に使える」と書かれていたケースです。 タイトル:「シニア向けスマートフォンの選び方」→ 残す 本文:「シニアでも簡単に使える」→「文字が大きく、基本操作が分かりやすい」 タイトルの「シニア向け」は、誰のための記事かを示す情報であり、企画の範囲を伝える役割があります。これを「使いやすいスマートフォンの選び方」と言い換えると、対象読者がぼやけてしまいます。 一方、「シニアでも簡単に使える」の「でも」は、年齢と操作能力を単純に結びつけるものです。年齢を理由にせず、文字の大きさや操作手順といった具体的な機能を書いたほうが、読者にとっても有益です。 このように同じ属性語でも、文中で果たしている役割によって「残す」「直す」の判断が分かれることに注意しましょう。

表現の基準は「完成形」にしない|社内ルールの更新方法

表現の受け止められ方や公的な名称は変わります。そのため、表記・表現ガイドラインを一度作って終わりにすると、数年後には古い判断だらけになり、使い物にならないおそれもあります。

多くの校閲者が手元に置く『記者ハンドブック(共同通信社)』は、1956年の初版刊行以来、数年ごとに改訂を重ね、最新版は2022年3月刊行の第14版です[5]。表現チェックの基準は不変ではなく、定期的に見直す運用が前提になります。

企業のコンテンツ制作では、次のような小さな仕組みを実践するだけでも十分に役立ちます。

  • 表記・表現ガイドラインに見直し時期を設定する。
  • 「元の表現/修正後/判断理由/判断日」を記録する。
  • 明確なNGだけでなく、迷った事例や「検討したうえで残した表現」も残す。

「なぜ直したのか、なぜ残したのか」の履歴が蓄積されていけば、それ自体が自社メディアの資産になります。

先に挙げたSmartHRは、この一件のあと、発信内容が適切か、倫理的な配慮ができているか、誤解を招く表現がないかを複数名で確認する体制を、全社で強化すると公表しました。表現やソーシャルメディア利用のガイドラインも、全従業員に改めて周知するとしています。同社は、情報発信に対する指導・管理体制の甘さとチェック体制の不徹底が最大の原因だったと自ら述べました。体制は、後からでも作り直せるということです。

ただし、すべての修正を記録する必要はありません。残す価値が高いのは、判断が割れた事例、今後も繰り返し出てきそうな表現、社内基準として共有したい事例です。日常的な言い換えまで対象にすると、記録が膨大になり管理できなくなります。

AIで不適切表現はチェックできるか|使いどころと注意点

不適切表現チェックの役割分担を、AIに任せやすいこと(表現の洗い出し・言い換え候補・過去事例との照合)と、人が決めること(文脈の妥当性・根拠の有無・媒体方針との整合)に分けて示した図

AIは不適切表現の「最終判定者」ではなく、一次スクリーニングの補助として使うと実務に組み込みやすくなります。

たとえば、記事全体から性別・年齢・国籍など属性に触れる箇所を列挙させる、言い換え候補を複数出させるといった使い方です。

ただし、AIが挙げた箇所が本当に修正対象かどうかは別問題です。同じ言葉でも、本人の発言をそのまま引用する場面と、企業が広告コピーとして発信する場面では意味が変わります。また、AIが「〜という傾向があります」と言い換えたからといって、その傾向に確かな根拠が存在するかどうかは調べてみないと判断できません。

AIによるスクリーニングには、誤検出と見逃しがあります。チェック条件を広げすぎれば指摘候補が増え、人が確認する工数がかえって膨らむことがあります。逆に条件を狭くしすぎれば、問題箇所を拾えません。

AIを過去の指摘事例との照合に使う場合も、自社のガイドラインや修正履歴を参照資料として与えたほうが精度は上げやすくなります。AIで広く候補を拾い、人が文脈・根拠・媒体の方針を踏まえて採否を決める。この役割分担が現実的な運用です。

まとめ|不適切表現のチェックは「NGワード探し」ではない

不適切表現のチェックで大切なのは、特定の単語を機械的に排除することではありません。属性への言及が必要か、根拠のない一般化になっていないか、本当に伝えたい情報を別の書き方で示せないかを確認することです。

公開前のチェックでは、まず「性別・年齢・職業・国籍や地域・障害や疾患・家族像」の6領域に触れる箇所で立ち止まり、決めつけ・一般化・古い言い回しがないかを確認してください。そのうえで、直す必要がある場合は属性ではなく、行動・機能・条件を具体的に書き直しましょう。

こうした判断を継続することで、単なる炎上対策にとどまらず、「自社がどのような読者に、どのような姿勢で情報を届けるか」というメディアポリシーも明確になります。

よくある質問

Q1. 属性に触れる言葉は、すべて避けたほうがよいですか?

A. いいえ。判断の基準は、その属性が文脈上必要かどうかです。女性向け商品の紹介、特定年齢層を対象とした制度案内、当事者への取材など、属性への言及そのものが情報の中心になる場面もあります。削っても意味が変わらないなら外す、削ると読者に必要な情報が減るなら残す。この線引きで考えると迷いにくくなります。

Q2. 言い換えると、伝えたいニュアンスまで消えてしまいます。どう判断すればよいですか?

A. 消えたのがニュアンスなのか、決めつけなのかを分けて考えてください。「女性ならではの細やかな接客」を「細部まで気を配った接客」に変えても、評価したい行動はそのまま残ります。一方、「シニア向けスマートフォンの選び方」から「シニア向け」を外すと、誰に向けた記事かという情報自体が失われます。前者は決めつけ、後者は必要な情報です。

Q3. 社内で判断が割れたときは、どう決めればよいですか?

A. 結論を多数決で決めるより、判断の理由を残すほうが効果があります。「その属性を出す必要があるか」「行動・機能・条件で書き換えられないか」「その表現に根拠があるか」の3点に沿って議論し、元の表現・修正後・判断理由・判断日を記録してください。検討したうえで残した表現も記録しておくと、次に同じ議論が起きたときの土台になります。

Q4. 過去に公開した記事も、いまの基準で見直すべきですか?

A. すべてを一律に直す必要はありません。資格名称や制度名のように、現行の正しい表記が決まっているものは事実確認として修正します。一方、当時の資料や取材相手の発言を引用している箇所は、原文を尊重し、必要であれば当時の呼称であることを補足すれば足りる場合もあります。地の文と引用を同じルールで処理しないことが判断の分かれ目です。

Q5. AIにチェックを任せれば、人の確認は省けますか?

A. 省けません。AIは候補を広く拾う作業には向いていますが、同じ言葉でも本人の発言の引用か広告コピーかで意味が変わりますし、言い換えた表現に根拠があるかどうかまでは判断できません。AIで候補を出し、人が文脈・根拠・媒体の方針を踏まえて採否を決める。この分担が現実的です。

出典

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